「怪盗ディモンシェとモミの木の少女・解答編」
エピローグ ~そして謎の真相へ~
はっと我に返ると、そのモミの木の下で何か言葉を発しながら、
気を失い崩折れていく彼女が見えた。
ゆっくりと倒れながら、みるみる彼女の姿が翳っていく。
まるで彼女自身が影になっているかのように。
そして、地面に倒れ落ちる瞬間、
色を失った彼女の姿は消えてしまっていた。
そのとき、私は思い出した。
あの立ち姿、あの三つ編、あの帽子…
そうだ、あれは「あの子」じゃないのか?と。
そう思った刹那、あの無邪気な声があたりに響いた。
「そう、あれは『あの子』ちゃんさ。
ボクが彼女の『和む心』とその色を盗んだから、
彼女は影の存在になってしまったんだ。」
「なんてことを…」つい声に出して言ってしまう。
「でもね、そのお詫びに、失った『和む心』を補ってもらうため、
彼女を歩香に送ったんだよ。」
「ボクに何かを盗まれた人はいずれ、
盗まれたものとボクの記憶を失ってしまうんだ。
だから、この真実を謎に封じ込めて、いずれ君のような人が
この出来事の真実を解き明かしてくれるのを待っていたのさ。」
「まあ、ボクの謎ときあそびの趣味も兼ねられるから、
一石二鳥ってやつだしね♪」
やっぱり、この怪盗のこういう悪びれない感じは好きになれない。
あの子が気の毒で仕方がない…。
「これでも、彼女には悪いことしたなって思ってるんだ。
ちゃんと歩香で心が満たされているようでよかったよ。安心した。」
「さてと、じゃあボクはこれでいくね。
またどこかで会えるといいね、ボクの好敵手さん。アハハハっ♪」
矢継ぎ早に、そして一方的に言いたいことだけ言って、
姿なき怪盗は去って行ったようだ。そう思った途端辺りが眩くなる。
戻るのかな…私はそれに抗うことなく目を瞑った。
気がつくと、いつもの客席に座っていた。
お兄さんたちが、キョトンとした目で私を見ている。
「解けましたよ、この謎」
怪盗を打ち負かしてやった満足感の余韻に浸りながら、
私はお兄さんたちに事の顛末を説明することにした。
そしていつの間にか、その話題もおわり、
いつものような他愛のない会話へと変わっていった。
そう、今、この時間は「あの子」のではなく、
「私」の『和む心』を満たす時間になっていたのだ。
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