「怪盗ディモンシェと時ノ旅ビト・解答編」 終着 ~エピローグ~
疲れたわ…。そんな言葉が車内の至る所に浮かんでいる。
ふと腕時計をみると、解き明かした運行表通り【4:00】を差していた。
ホント、とんだ時間旅行だった。結局リフレッシュできたのだろうか…
車窓を眺めると、霞みの中から見慣れた風景が現れはじめた。
終着の歩香に戻ってきたらしい。そんな気持ちの中ホッとする自分に気付く。
謎解き好きとはいえ、さすがに気構えのないこの不意打ちはちょっと堪えた。
私はすぐに席を立って降りる気にはなれなかった。他の乗客もそのようだった。
ただ、その元凶とも云うべき怪盗が珍しくちょっと黙っている。
本来なら、言いたいことを矢継ぎ早にしゃべって勝手に帰っていくのだが、
それもなく、私たちを放置するように黙りこくっている。
おかしな事もあるものだなぁ…と思っていると突然またしゃべり始めた。
『あれぇ? おかしいなぁ…。実はボク、みんなから盗んだものがあるんだけど…
キミたち、ボクのことを忘れる気配がない…こんなこと初めて…
なんだろう…キミたちから強い力のようなものを感じる…』
え?どうしたんだろう、怪盗の様子がなんだかいつもの調子と違っていて、
不本意ではあるが、ちょっと拍子抜けする。
とはいえ、相変わらず何を言っているのか「?」ではあるけれども…。
そう訝しがる私の気持ちを知ってか知らずか、またいつもの調子に戻った。
『とりあえず、みんなから盗むものは盗んだし、まぁいいやっ♪
このことはボクへの「謎」ってことで、ガンバって解いてみるよっ♪
それじゃ、またどこかで会えるといいねっ♪ボクの好敵手さんっアハハッ♪』
あぁ、行ってしまった…まあ結局はこうなるのよね、みんな置いてけぼり。
これで本当に解放されたと感じた乗客たちが、三々五々帰路につき始めた。
ただ、私は彼の言葉が心のどこかで引っかかってるようでしばらく座っていた。
「怪盗自身への謎」だと声の主は言っていたけど、私は寧ろ、実のところは
「私たち自身への謎」なのではないかと思えて仕方ないのだ。
ほんと、歩香では時間があっという間に過ぎてしまうなぁ…。
そう思いながら、しばらく車窓からのその歩香の姿を眺めていた。
いつまでもここでボーっとして眺めていたい気持ちだったけれど、
そういう訳にもいかない。私は重い腰を上げて、この時渡りの汽車をあとにした。
少し外が肌寒くなっていたのもあったのだろうが、いずれまた、否応なしに
この怪盗に振り回されるであろう予感にゾッとしていたのか、それとも、
また謎をしかけられる期待感のようなものにゾクゾクしているのか、
私は歩きながら、ひとつ大きな身震いをするのだった。
* * * * *
『はい、盗んだものキミに全部あげるよっ♪アハハ♪
どう?うまくいったでしょ?だれも多分気付いてないと思うよ、エヘ♪』
『…』
『歩香でキミが起こす不思議は楽しいねっ♪気付くと時間が消えているなんてっ♪
まるでボクと同じだねっ、アハハ♪ じゃ、また今度色々あそんでね、バイバイっ♪』
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